同居 [ゴールデンブログアワード]
母と弟家族が同居して,今年で十年になる。
弟の嫁のKちゃんは気が強く,夫婦喧嘩のときは,凄まじい戦闘が繰り広げられる。電話投げつけ事件,イス投げ飛ばし事件などは,聞いて驚いた。前者では電話が壊れ,しばらく携帯しか通じなかった。後者では,新築だった二階の部屋のドアが閉まらなくなり,取り替えたらしい。そんな調子なので,母とKちゃんの揉め事もしばしばである。その度に,近くに住む姉が仲裁したり,母の愚痴を聞いてやったりしている。
私には,たまに母が電話で愚痴をこぼしてくる。しかし,私が毎回前向き発言してしまうため,母の気晴らしにはならないようだ。
「あんなん躾けとちゃう。虐待や。」と,母から電話がかかってきた。
「まぁ,Kちゃんの考えもあるやろうから,行き過ぎがないように見守ってあげたら?」
「考えなんか無いわ。『部屋片付けへん』言うて,階段からMちゃん(母には孫娘)の物を投げ捨てたりしはんねんでぇ。」
「良かったやん。お母さんが一緒に居るから,守ってあげられるしなぁ。」
「えっ・・・,まぁなぁ。」
「一つ聞いてええかぁ?」
「何?」
「お母さん,Kちゃんとお姉ちゃんと,どっちと一緒に住みたい?」
「Kちゃん。」
即答であった。母が姉と同居するのを嫌がる理由は想像できる。弟たちとの同居に向けて実家を建て直すとき,母は姉の家に三カ月間居候した。そこには厳しいルールがあり,母も従わねばならなかった。例えば,①マッサージチェアを使ったら,コンセントを抜いて,所定の場所に戻す。②姉が英会話の勉強に集中するため,夕方七時にテレビをつけない。
通常,家のルールは女主人が決める。母は三十年以上『気ままなルールブック』であった。「スーパーのレジ袋はたたんで冷蔵庫の横の袋に入れておく。」だったはずなのに,次の日には「もう,これ以上入れんといて!邪魔になる。」と,私を怒鳴るのだ。子供の私は呆然とした。最初の頃は,自分のミス,ルールを間違って覚えていたと思い,反省したものだ。ルール違反を叱られる度に,何処で,どのようなミスを犯したのか,どうすればミスを防げるのかを,繰り返し考えた。子供時代の私はくそ真面目であった。長い間考え続けて,ルールブックの注意書きにやっと気付いた。
『予告なく変更することがあります。』
このように三十年以上も,彼女の領土内で,好き勝手に暮らしてきたのだ。そんな母である。ストイックな姉の領土での生活は,期間限定でもかなり苦痛であったらしい。「家に帰りたい」と,私に愚痴る程に。
Kちゃんと同居の二世帯住宅では,一階は母の,二階はKちゃんの,共有部分は共通のルールが適用されている。母の気まぐれワールドとルールブックは健在である。もし,肉親の姉と同居したら,互いの領土分けが曖昧になり,やがて,しっかり者の姉に占領される恐れを,母は直感したに違いない。だから,母は迷わずKちゃんを選ぶのだ。
同居十年,継続は愛なり。喧嘩しても,お互いに思いやりがあったから,気の強い嫁と気ままな母でも一緒に居られたと思う。
もちろん,私は弟の存在価値も認めている。この十年間の彼は,彼女たちの共通の敵『ぐうたら君』として,円満同居に大いに貢献してきた。今時の国際関係の縮図を見るようである。
あの電話以来,母の愚痴電話が無い。
母は愚痴電話する相手を,厳選するようになったのだ。彼女の電話の目的を知っていながら,今まで私は彼女の期待に応えようとしなかった。私は反省している。ここで母に謝っておきたい。
ごめんね,お母さん。今度は,黙って聞きますから,たぶん・・・。






