Anniversary. [クロスオーバー]
また転載なんだ。うん、すまない。(´・ω・`)
ミクシの方で読んで下さった方は、細かい修正以外おんなじものなので読まなくてよいですよ。
KanonとLienのクロス。クロスでもバトルはない。
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Anniversary.
沙羅のように彩めいて輝く下生えを巻き込んで、ただ風が通り過ぎてゆくだけの丘に、恭子は居た。
冬枯れた森の覆う丘の真ん中に、奇跡のように開けた土地だった。
周囲の森のお陰だろうか。それとも休みなく吹き渡る、この風のせいだろうか。
他では大地を包み覆う雪は、この草原にはあまり見られなかった。
「――」
物音に振り向くと、そこに一人の少年が立っていた。
右の手には、花束を。
左手にはいっぱいの肉まんを入れた、紙袋を抱えて。
「こんにちは」
「こんちはっス」
笑顔を作って挨拶すると、慌てたような応えと会釈が返ってきた。
「お邪魔ですか」
「いいえ、いいです。大丈夫です」
少年は首を振ると、草原の隅っこに行ってそこに腰掛ける。
自分が座るその前に、花と肉まんの紙袋を置いて、あとはただそれを眺めているだけだった。
「……おいしそうですね」
いつのまにか自分の背後につかれていることに気が付かなかったのか――まあ、そのように近づいたのだが――声をかけると少年は、びっくりした顔で恭子を振り返る。
しばらく見上げてきていたその顔が、不意に緩んで恭子に言葉を投げかけた。
「好き、なんですか。肉まん」
「コン」
あらいけない、つい本性を出してしまった。何百年生きようと、自分自身までは捨てられぬものだ。少年も、さぞかしいぶかしげに私を見て――いない。
むしろ目を見張って、恭子の顔を見上げてきていた。さぞかし驚かせてしまったか――それとも。
「あ、いや、うん。それじゃあ、一個どうぞ」
「あら、いやだ。そんなつもりじゃないんですよ。それにそれ、お供えものなんでしょう?」
「そんな、大したもんじゃないです。……いいんですよ、一個くらい。あいつは怒るでしょうけど、かまわないでください」
苦笑、と言うには気持ちのいい笑顔で、少年は底のほうからまだ温かみの残ったひとつを引っ張り出して差し出した。それが、その行動が、何かの願いがこもっているかのように見えて、恭子は思わず――肉まんにではなく、その手を取ろうと――手を伸ばす。
少年は笑顔で、伸ばされた彼女の手に肉まんを乗せた。その温かみに、自分がそれを要求したと思われてもおかしくない行動を取ったことに気付いて赤面する。
「あら。あら、あら」
「どうぞ」
「あらまあ。それじゃあ、せっかくですからひとつだけ」
両手の指先でほのかな温かみを包んで、口にもっていく。一口噛むと、甘い油の味が冬風に乾いた舌に染みた。
「あら。おいしい」
恭子の感想に、少年は笑顔で彼女の顔を見上げた。
草の上に腰掛けたまま、少年は、紙袋と花束に目を落とす。
その花束が、菊や桔梗ではなく薔薇とカスミソウのブーケであることに恭子は気付いた。
そして恭子が気付いた、というそのことに、少年も気付いたようだった。
「今日は、結婚記念日なんです」
呟く少年の横顔は、もう笑顔ではなかった。
「俺たちの」
「……そう、」
――ああ。そうか。
少年が、他でもないここを、この丘を訪れた理由に、恭子は気付いた。
また、ここの子が。100年にも満たぬ幼仔が、人里の温かさに惹かれて、また。
「、なの、ですか」
それきり少年も、恭子も、しばらく言葉を交わさずに、枯れた風の往く方に視線を送っていた。
まったく――。
ヒトなんて、そこまで大したものでもないというのに。なぜ、あなたたちは。
そこまで考えておいて、それが自身の選んだ境遇と甚だ矛盾した考えであることに気付く。
そうだ。
ヒトが特別なのではない。特別なヒトがいただけだから。
ああ、聞こえる。確かに、聞こえる。
年経たものの声は人間以上の叡智をもつが、静かで一定である。若い声はひとつの想いに近くて、小さいけれど激しくて熱い。
その中に、小さく小さく。だけど確かに、しっかりと。少年を見るひとつの想いがある。
「……それでは、あなたたちの結婚記念日を祝して」
恭子がぽんと胸の前で手を叩き、それに引かれて少年の視線が彼女に向かった。
「それと、肉まんのお礼も兼ねてということで、ひとつ手品をお見せしましょう」
余所行きの呉服の裾から、白い手を差し出して静かに天に掲げる。
「手品……?」
「――大丈夫。その子のこころは、ちゃんとここに帰ってきていますよ」
均一だった風が、そのとき強く吹いた。
連れてきたものを恭子の手に託して、行き過ぎてゆく。
「貴方が、連れてきてくれましたから」
恭子の手に握られていたのは、赤茶けた布だった。
風に流れて広がると、細かく編まれたレースがわかる。
それは、ヴェールだった。
薄汚れて、元の色は失われてしまっているけれど、昔はたしかに真珠のような純白をしていたのだろうと思わせる、美しいレースの。
無表情に目を見開いてそれを見上げていた少年の右目から、ぽろりと一筋だけ、雫が落ちる。
「結婚記念日、おめでとうございます」
ヴェールを手渡すと、少年の無表情が不意に、くしゃりと歪んだ。
大人びたように見えていた彼の顔が、そのとき初めて、恭子の目に年相応に戻ったように映る。
遠くのどこかから、風が運んできたのだろうか――そのとき。
凜、と。
鈴の音が鳴いて、消えた。
おうい、という野太い声に振り向くと、果たしてそれは恭子の待ち人であった。
僧形に長髪。若作りに見えるが、実際の年はもう四十を越えている。
けれども、恭子にとっては、人の年齢も外見もどうでもいいことだった。
「すまぬな、恭子。待たせてしまったか」
「いいえ、あなた。先ほどまで若い男の子と楽しくお喋りしていましたので、退屈はしていませんよ」
若い男の子、というところで、男はむっと口の端を歪める。嫉妬しているのだ、年甲斐も無く。そういうところが可愛くて、恭子の気に入っているところの一つなのだが。
「……少し、志郎さんに似た、優しい子でしたよ」
その名に、男は表情を改める。
それは、大切な名前だった。二人の思い出に共通する、懐かしいと言うにはまだ鮮烈な記憶。
「そうか」
短く重い声で、男はそれだけを口に出した。
「そういえば恭子。土地の先住者に、挨拶にと言っておったが」
口調を軽いものにして、男は微笑の表情をつくる。
「ええ、そちらは滞りなく。あなたのお仕事の方は?」
「うむ。よくある、と言ってしまえばそれまでであるが、いたたまれん仕事だった。だが、あの子は強い。いい友達もいる。きっと、今回のことも乗り越えてゆけるだろう」
「そう。あなたも、いい子に会えたのですね」
そうして、恭子は遠くを見る。
さきほどよりも幾分、優しくなったような気がする風の中に。
恭子は、少女の笑い声を聞いた気がした。






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