祐巳ちゃんにセクハラし隊 [マリみてSS]
原作:マリア様がみてる
タイトル:祐巳ちゃんにセクハラし隊
備考:白薔薇伝統芸能
『祐巳ちゃんにセクハラし隊(略称・セクし隊)』
そんな一文が書かれたホワイトボードを支持棒でバンバン叩きつつ、白薔薇さまが口を開く。
「ではただ今より第一回セクし隊定期会合を始めたいと思いまーす」
横の志摩子さんが、パチパチと手を叩く。叩きつつ由乃の方を凝視してくるので、由乃もやむなく小さく拍手した。
――なんで私、ここにいるんだろう…。
なんでも何も由乃はいつも通り掃除を終えて薔薇の館に顔を出しただけなのだが、館には白薔薇姉妹しかおらず、何時の間にか始まっていた会議に何時の間にか仲間にいれられてしまっていた。どう考え直してみても、反省点が見当たらない。
「まずは」
白薔薇さまである佐藤聖さまがホワイトボードに赤字で“レッスン1”と記す。
続けてその横に書き加えたのは、
「実践」
と、その言葉通りの単語だった。
「以上です」
隣で志摩子さんが、「なるほど」と真剣な顔で頷いている。もう、どうすればいいんだこれ。
そして、なし崩し的に次の日。私たち3人は、教室にいる祐巳さんを覗き込む構図となっていた。
もうやぶれかぶれで「逃げてー!」とか叫びつつ祐巳さんの手を曳いて一緒に逃げようかと考え出したころ、白薔薇さまが私の肩に手を置いてにやりと笑う。
「一番手。由乃ちゃん、いっチャイナ?」
「あう……っ」
どうでもいいが、親指を人差し指と中指の間に挟むな。どこまでセクハラ大将軍なんですか、アナタは。
隣では志摩子さんが、「がんばって」って顔で頷いて拳を握りしめている。志摩子さんには悪いが、すごく頑張りたくない。
しかし、もはや逃げるタイミングは失われてしまったので、仕方ない。席に座る祐巳の背中にそろりそろりと近付きつつ、日本人ていうのはほんとに場の空気に逆らえない人種だなぁとか由乃は考えた。
「――ゆっ、祐巳さんっ!」
「ひきゃぁあっ!?」
背中から、思い切り抱きつく。さらには抱きつくふりをして、胸に両手を回すのも忘れない。
島津由乃。やるとなったら、とことんやる主義の女である。
「白薔……じゃないっ、よ、由乃さん!?」
(――あれ?)
パニクって暴れる祐巳さんを抱きしめるうち、由乃の中に得も言われぬ感情が沸いてくる。
安眠マクラのような絶妙の弾力感に併せて、嫌がって暴れる子猫を抱えているような湧き上がる苛虐心。
これは。
これが、白薔薇さまの見ていた世界――。
「よっ、由乃さん?まだ揉んでるよ?ちょっと?」
それにしても、祐巳さんはいい匂いだなあ。ミルクっぽい匂いって云うか。
「由乃さんっ!?これ以上の時間は淫行罪だよっ!?うはぅっ!耳!?耳に鼻息が!たっ、たすけてみんなっ、なんでちょっと嬉しそうに遠巻きに見てるだけなの!?」
すっかり堪能して「どうよ!」という顔で帰ってきた由乃を迎えたのは、白薔薇二人のため息であった。
「由乃さん、貴女にはガッカリです。あの程度で、祐巳さんを濡らせるつもりなんて」
「ぬっ、濡らせるって」
あくまで真剣な顔の志摩子さんに、むしろ由乃の方が赤面して引く。身も心も。
「あの程度なら、祐巳さんはお姉さまに毎日やられてすでに免疫がついています。私たちは、常にその先を見て不断の努力をしていかなければならないのだと思います」
政治家の演説のようなことを言い出す志摩子さん。
「まったく、志摩子の言う通りだね。志摩子、白薔薇の力の一端、見せてやりな」
頷いて教室に入ってゆく志摩子さんの背中を、白薔薇さまは信頼に満ちた瞳で見送っていた。
「由乃ちゃん、見ておいで。最短の時間で、最大の効果。それが白薔薇の戦い方だよ」
志摩子さんは、由乃がそうしたようにつつっと祐巳さんの背後に忍び寄ると、とん、と背中に手を当てて微笑む。
「祐巳さん、ごきげんよう」
「あっ、ごきげんよう志摩子さ……!?」
無防備な笑顔で挨拶を返しかけた子狸、もとい子羊の祐巳さんは、急に顔に血を上らせて両手で胸を押さえつけた。
「え?どうしたの、祐巳さん?」
「う……ううんっ何でもないっ!ご、ごめんね志摩子さんっ、私ちょっとトイレっ!」
真っ赤になってトイレに駆け込んでいく祐巳さんを、志摩子さんは我が子を見守る母親のような慈愛の視線で見送ってから、こちらに帰ってくるのだった。
「腕を上げたね、志摩子」
「いえ、まだお姉さまには到底及びません」
「え?え?今、志摩子さん一体何を…」
一人わけのわからぬままの由乃に、白薔薇さまが説明してくれた。
「ブラだよ。志摩子はあの一瞬で、服の上からブラのホックを外してみせたわけさ」
「えっ、えー!?」
秘技・服の上からブラ外し。
セクハラを極めたものが最後にたどり着くという、禁断の奥義のひとつである。
「対象の祐巳ちゃん本人にも自分の仕業と気取られることなく、祐巳ちゃんの恥ずかしがる顔を堪能できる……志摩子、なかなかやるじゃない」
白薔薇さまのお褒めの言葉に、志摩子さんはただ優雅に微笑みを返してみせるのだった。
なんだこの姉妹。
「さて。志摩子にそこまでやられちゃ、私も本気を出さざるを得ないね」
ポキポキと指を鳴らして、気合を入れる白薔薇さま。
その視界に、丁度お手洗いから戻ってきた祐巳さんの姿が映る。
「じゃ、見ててね二人とも」
言い残して、祐巳さんの方へと歩き出す白薔薇さま。その歩みはごく自然で、それゆえにこそ、これから為すことへの深い自信が感じられた。
「あれっ、祐巳ちゃんごきげんよー」
「あっ!白薔薇さま、ごきげんよう!」
嬉しそうに挨拶する、祐巳さん。ぱたぱたと振られる尻尾が、幻となって見えるかのようだ。
「どうしたんですか?あ、志摩子さんに御用ですか?」
「いや、ちょっとね――」
瞬間。
「!?」
白薔薇さまの姿が、消えた。
気付いたときには、白薔薇さまの姿は、祐巳さんの後ろにあった。いつの間に、すれ違ったのだろうか。動きが全く見えなかった。
祐巳さんにとっても、それは同じであったらしい。目をまん丸くさせて左右を見回した後、ゆっくりと振り向く。そこではじめて白薔薇さまの姿を捉えて、目を白黒させていた。
「偶然通りかかっただけ。じゃあまたねー祐巳ちゃん」
「は、はい……ごきげん、よう……?」
祐巳さんの姿が教室の中に消えてから、由乃たちは慌てて白薔薇さまに合流する。
一体、何が起こったというのだろうか。白薔薇さまの見せた信じ難い体術はともかくとして、その後の祐巳さんの様子には志摩子さんのときのようにおかしな様子は見られない。
あれで一体、何がどうなったって云うんだ?
「ふふっ……見てごらん」
会心の笑みを浮かべつつ、自らのスカートをたくしあげる白薔薇さま。そこには、白薔薇さまのイメージには甚だそぐわない、ピンクの可愛らしいクマさんぱんつがあった。
「こっ、これは……祐巳さんの今日のぱんつ!」
「ええっ!?」
なんで志摩子さんが今日の祐巳さんのぱんつを知っているのかは置いといて、とりあえずそこにある事実に由乃も驚きを隠せない。
「しかも、祐巳ちゃんは今、私のはいていた黒のティーバックをはいている」
「ゆっ、祐巳さんが黒……ティーバック」
奇跡を目の当たりにした表情で、志摩子さんが口元を抑える。鼻血らしい。
「そう。こうして祐巳ちゃんの温もりに私が包まれるとともに、私の匂いを祐巳ちゃんに染み込ませる……まさに一石二鳥。これぞ超白薔薇奥義・ギガンティックパンツドリーム!」
「素晴らしいです……お姉さま」
一片の後ろめたさもない表情で高らかに語る、エロ忍者。
最低の嫌がらせもあったもんだった。
「……さっきから、何か変だと思ってたら……」
「――っ!?」
低く抑えられた、その声の方へ振り向く一同。
そこには――多分、ティーバックが食い込んで歩きづらいのだろう。股間の前後辺りを手で抑えつつ、ひょこひょことした足取りで近づいてくる祐巳さんの姿があった。
そして、真っ赤になったその顔には、ありありと。
祐巳さんには滅多に見られない、本気の怒りの表情が浮いていた。
「もうっ、ぱんつ返してくださいーっ!」
「わぁいっ、祐巳ちゃんが怒ったー」
「ごっ、ごめんね祐巳さんー!」
拳を振り上げる、祐巳さんに。
由乃たちはとりあえず、一目散に逃げ散ったのだった。
その後セクし隊は、悪行の程を祐巳にチクられ、山百合会の法(ロウ)紅薔薇さまとそのつぼみである女夜叉によって総員ボコボコにされたうえ解散とあいなった。
紅ファミリー、強し。
「祐巳さん祐巳さん、今私、すごいもの見た」
美少女を撮るときの高揚した顔以外には滅多に感情を動かさないクールビューティー蔦子さんが、珍しくショックを受けた顔をしてやってくる。
「今、文字通り首に首輪とロープつけられた白薔薇さまが、紅薔薇さまに曳かれてうなだれて歩き去っていったんだけど」
びっくりして、思わずシャッター切っちゃったわと云う蔦子さん。すでに条件反射になっているらしいところが、流石と云えた。
「うん……せめて公表はしないであげて、蔦子さん。武士の情けで」






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