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TPPで乳製品保護は撤廃されるか [経済]

 カナダがTPP交渉に参加すると、アメリカ・オーストラリア・ニュージーランドは、カナダの乳製品に関する輸入障壁を撤廃するよう要求し始めた。
 米国乳製品輸出連盟と全米生乳生産者協議会は「アメリカ乳製品に対する、カナダのすべての貿易障壁は撤廃されなければならない」という声明を発表した。またアメリカ乳製品輸出協会のトム・スーバー代表は、「アメリカ乳製品の、カナダ市場への完全に自由なアクセスなしには、いかなるTPP条約も支持しない」とアメリカ政府に通告した。

 カナダの酪農業は、供給管理制度を採用している。酪農家が乳牛を増加するには、他の酪農家から割当(クオータ)を購入しなければならない。1クォータの定義は「乳脂肪を1キログラム生産できる1日当たりの生乳生産量」であり、乳牛1頭を飼養する権利に等しい。1クォータの価格は、2007/08年度の全国平均で28205カナダドル(約231万円)であり、カナダの酪農生産者の平均飼養頭数は72頭であることから、72頭の乳牛を飼養するためには、飼育する権利を72×28205=2,030,760ドル、なんと1億7千万円で購入する必要がある。つまりは、乳牛72頭規模の酪農業を新規に起業するためには、土地や乳牛そのものの費用とは別に、飼育する権利を1億7千万円分も購入しなければならないが、既存の酪農業者が離農のためクォータを売却すれば、1億7千万円を手にすることができることになる。しかしこれも割当制度が続くかぎりの話であって、これが撤廃されれば、クオータの価値は消滅することになる。
 乳製品にかかる関税は最大で315%もあり、NAFTA(北米自由貿易協定)締結後もこのような貿易障壁が維持されてきたことは驚くべきことである。カナダはかつて乳製品の輸入規制を行ってきたが、1995年のWTO発足により、現行の割当制度に差し替えられた。アメリカは同年これをNAFTA協定違反として提訴したが、翌年合法と裁定されている。カナダのTPP参加をアメリカが許容したのは、NAFTAの再交渉を狙っているという見方が強い。

 カナダのマッティアス・ブリンクマンEU大使は、カナダとEUの双方が、供給管理制度の撤廃よりは是正を志向していると語った。それはたとえば、カナダがチーズ輸入を増やすかわりに、EUは牛肉輸入を増やすというようなものである。貿易の専門家や他のTPP参加国も、カナダの保護貿易主義的な供給管理制度が一朝一夕にして撤廃されるとは考えていない。かつて外務及び国際貿易省に務め、現在はクイーンズ大学非常勤講師であるジョン・カーチス氏は、最大で315%もある関税には譲歩の余地が非常に大きく、30から50%程度切られたとしても、まだなお輸入障壁として十分機能すると指摘した。
 圧力は、海外だけにとどまらない。 マケイン・フーズ社やサプト社などのカナダの食品メーカーは、アジア市場に売り込みを図りたいが、現行制度下では競争的価格を維持するには、カナダ国内で酪農成分を買うことが難しい。また供給管理制度のためカナダの消費者は、乳製品や鶏肉に年間30億ドルも余分に支払っている。

 アザラシ製品は2009年EUに禁輸措置を取られ、世界有数の産出量を誇ったアスベストも、健康被害から2011年採掘中止に追い込まれた。世界第2位の産油国であるカナダが命運を賭けたキーストーンXLパイプラインも、原油漏れが指摘され計画は凍結された。カナダは手詰まりの中で、アジア市場に打開策を見出そうとしている。そのために、自国の保護貿易制度を多少の犠牲にさらすことは、想定内であろう。TPPにまつわる極論が多く喧伝されているが、いたずらにオール・オア・ナッシングの議論に陥ることなく、日本もカナダと同様、冷静に条件闘争すべきである。
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